怪盗ピンク
 大都会キュリアスシティ、深夜の高層ビル街をスパイダーマンのように飛び抜けるピンク色の少女の姿。彼女の名は怪盗ピンク。巷を騒がすキュートな女泥棒。彼女の逮捕に執念を燃やすキュリアス市警のブルー刑事は、毎回、万全とも思われる警備体制を引くが、それをあざ笑うかのように警備網をすり抜けられ、失敗を重ねる。そして、確実に翌日の新聞では、そのマヌケとも言える失策を叩かれてしまう。
 怪盗ピンクの次ぎなるターゲットの予告がブルーに送られてきた。キュリアスホテルで開催される『世界貴金属展』に出品される時計職人ブラウンの腕時計だ。ブラウンは世界でも名立たる時計職人で、彼の作る時計は芸術品として高い評価を受けている。ブルーは、完璧なまでの警備体制を敷く。会場内には高感度赤外線センサー張り巡らせ、床一面には加重感知センサー、会場の入り口には100人体勢の警官を配備。そして、自らも展示台の中に隠れピンクを待ち受ける。
 予告時間、突然ピンク色のピンクの飼い猫ペッシュが、猫の大群を先導し、会場になだれ込む。作動するセンサー、捕獲に手間どう警備の警官。一瞬にして会場は大混乱。ブルーが展示台の中から外に飛び出そうとした瞬間、床が丸く焼き切られていく。突然のピンク登場に驚きながらもブルーは、咄嗟にピンクに手錠をかける。
「ピンク逮捕!」台から飛び出し、歓喜の雄叫びを上げるブルー。次の瞬間、会場全体に大きな振動が走る。場外に響く銃の発砲音。壁が砕かれ、武装ロボットが会場に侵入する。ピンクの猫にロボット、会場内は収拾がつかない。
 混乱に乗じてブラウンの時計をケースから奪い取る紫色の影。『怪盗ヴァイオレット』と名のるその女泥棒は、ブラウンの時計は全ていただくとピンクに宣戦布告。そして、武装ロボットにピンクとブルーを始末するように命じ逃げていく。武装ロボットの攻撃に手錠で繋がれた2人は必死に逃げ回る。ロボットの装甲には銃の弾丸も通用しない。ピンクを庇い、傷を負うブルーは、震える手でピンクの手錠の鍵をはずす。「早く逃げろ、お前をここで死なす訳には行かない、お前を捕まえるのは俺だ…」と言って笑みを浮かべる。
 逃げようとしていたピンクのハートがドキっとうずく。武装ロボットのガトリング銃がブルーに狙いを定める。ブルーがあきらめかけた瞬間、ピンクのワイヤーフックが武装ロボットの首筋の隙間に打ち込込まれ、激しい電流が流れる。動きを止める武装ロボット。傷ついたブルーのもとへ駆け寄るピンク。意識のないブルーに涙を流しながら叫ぶ。
「あんたが死んだら、誰が私を捕まえるの!!」
 その時、武装ロボットが再び動き出し、ピンクを捕まえ銃口を突きつける。銃声が響く。武装ロボットの動きが止まる。最後の力を振り絞ったブルーが、首筋の隙間に銃口を差し込み銃弾を撃ち込んだのだ。
 サイレンの音とともに、警察の応援が到着する。ブルーは自分のジャケットをピンクに着させ、大げさな演技で駆け込んできた応援部隊の注意を引きつけピンクを逃がす。
 次の日、病院のベッドで苦々しく新聞を見ているブルー。各紙一面、ブルーの失敗を大々的に報じている。ブルーは何故ブラウンの時計が狙われるのか考えていた。ピンクは数々の貴金属を盗んではいるが、何故かブラウンの時計以外は持ち主に戻っている。そして、新たな怪盗ヴァイオレットの登場。ブルーは時計職人ブラウンについて調べ始める。
 家に戻ったピンクが腕時計のボタンを押すと、秘密の地下室の扉が現れる。中に入るとトレーニングジムと最新鋭の機器をそろえた作業室、そして数々の泥棒アイテムが収められていた。アンティークの引き出しを開けると、盗み集めた5つのブラウンの時計が入っていた。
 時計職人ブラウン・シュガーはピンクの父親だった。ブラウンは天才時計職人として高い評価を集め、その作品は芸術品と讃えられコレクターに絶大な人気を誇っていた。しかし、愛していたブラウンは、数年前行方不明になってしまう。残されたのはこの地下室とピンクに託されたメッセージ。「12個の私の時計を盗み出し、封印して欲しい。泥棒に必要な物は全てそろっている。世界の平和はお前の腕にかかっている」
 その言葉が何を意味するのかピンクにはわからなかった。しかし、ピンクは大好きだった父親の意思を実行すべく『怪盗ピンク』となり、ブラウンの作った時計を盗み始めたのだった。
 シャワーを浴びながら、初めての失敗に落ち込むピンク。6つ目の時計を怪盗ヴァイオレットに奪われてしまった。絶対に取り返すと心に誓う。浴室から出ると、汚れたブルーのジャケットが目にとまる。自分を助けてくれたブルーの姿が脳裏に浮かぶ。ブルーは大丈夫だったのだろうか…心配するピンクに、薄笑いを浮かべる愛猫ペッシュ。赤くなりながら、慌てて否定するピンク。しかし、ブルーに対し、今までにはなかった感情が芽生えつつあるのをピンクは感じていた。
 秘密裏にブラウンの事を調べ始めたブルーは、ある事実をつかんでいた。ブラウンは天才時計職人であるとともに、政府直轄の『O-プロジェクト』のメンバーだった。この極秘プロジェクトは、超古代文明のオーパーツ(時代錯誤遺物)の研究組織で、軍部が深く関わっていた。しかし、半年前からメンバーが行方不明、もしくは死亡し、データ上O-プロジェクトは存在を消され、闇に葬られた状態になっている。行方不明のリストにブラウンと、軍から派遣された兵器開発の天才技術者グレイの名前があった。グレイは軍で新兵器開発に携わっており、O-プロジェクトのリーダーでもあった。彼の設計するロボット兵器は、あまりの殺戮能力と残虐性の高さに、上層部から人道的なクレームがつき、実戦配備が見送られる事も多かった。ホテルを襲った武装ロボットのテクノロジーに、ブルーはグレイの影を感じざるを得なかった。
 高校の下校時間、ピンクが怪しいコートの男に襲われる。抵抗するも常識離れした力で車に押し込めようとする。そこにブラウンの娘を訪ねて来たブルーが慌てて助けに入る。(もちろん怪盗ピンクだとは知らない)怪しい男をピンクから引き離すと、その男はロボット。ブルーはピンクを自分の車に乗せ発進しようとするが、ロボットは車の後部車輪を持ち上げ動きを止める。ロボットは後部ガラスを突き破りピンクに迫る。慌てたブルーが銃弾を打ち込むが通用しない。ピンクはブルーに見つからないように、制服のボタンをむしり取り、ロボットの口に投げ込み腕時計のボタンを押す。次の瞬間、ロボットは車の後部ごと爆発。唖然とするブルー。怯えている振りをしてブルーに抱きつくピンク。車が大破し、仕方なくピンクのベスパに乗り2人で家に向かう。その様子を昆虫型偵察ロボットが監視している。
 キュリアスシティ郊外の荒れ果てた古城。内部は最新鋭の兵器工場になっている。偵察ロボットから送られて来た映像を壁面のモニターで見ている不気味な老人の姿。彼こそ、行方不明とされているO-プロジェクトリーダーのグレイ・パンナコッタであった。
 広いフロアには。巨大なオーパーツ、コスタリカの大石球(巨大な石の正球体)が置かれている。怪盗ヴァイオレットが手に入れたブラウンの時計をグレイに渡す。グレイが時計のムーブメントを怪しい機械にセットすると、部品が激しい光を放ち動き出す。それに呼応するかのように、大石球のひとつが光り始め、巨大な手に変形を始める。
 O-プロジェクトはオーパーツの平和利用を探る研究プロジェクトだった。オーパーツしかし、グレイは、オーパーツの兵器利用。そしてついに、コスタリカの大石球が、古代に異星人が地球侵略のために持ち込んだ究極のロボット兵器だという事を突き止めた。グレイはそのオーパーツ兵器を自分の物にし、究極の力を手に入れようと動き始めたのだった。その制御装置を設計加工していたのがブラウンだった。平和利用と信じて協力していたブラウンは、グレイの行動に危機感を抱き、制御パーツを時計に組み込み、プロジェクトから逃げ出してマーケットに流したのだった。芸術品とされるブラウンの作品は、コレクターや美術館が厳重な保管をする事を予想しての緊急の判断だった。それに気づいたグレイは、ロボット泥棒『怪盗ヴァイオレット』を操り、ブラウンの12個の時計を集め始めたのだった。
 フロアの大石球は不完全な形でその変化を止めてしまった。やはりブラウンでなければ制御装置の調整は不可能なのだ。グレイはヴァイオレットに次ぎなる時計を手に入れるように命令し、緑色の髪をした女性ロボットには、ブラウンの居所を見つけるために、ピンクを捕まえるように指示をいれる。
 ブルーの背中にしがみつき、お気楽に恋の予感に浸っているピンク。しかし、自分の身にグレイの魔の手が忍び寄っている事に気づいていない。ブラウンは今どこにいるのか? 怪盗ピンクと女子高生ピンクの恋の行方は? そして、ピンクは12個の時計を集め、世界の平和を守る事ができるのだろうか…?

※「オーパーツ」 : 発見された場所や時代とはまったくそぐわない古代遺物。未知の超古代文明や異星人来訪の証拠とされている。


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